SENIT
SENIT(フランス語: Système d'Exploitation Navale des Informations Tactiques)は、フランス海軍のプログラミングセンター(CPM、1994年にトゥーロンのル・ムリヨンにあるISCへ統合)が中心となって開発した艦載用の戦術情報処理装置のシリーズである[1]。
開発経緯
[編集]1960年代初頭より、フランスはアメリカ合衆国の海軍戦術情報システム(NTDS)に関与してきた[1]。これを踏まえて、1963年より、自国版のNTDSの開発が開始された[1]。NTDSとの最も重要な違いは、SENITが戦術状況図の生成だけでなく、各種武器システムへの目標指示機能も備えている点である[1]。最初期から3番目までのシステムはすべてアセンブラ派生のCS-1ソフトウェア言語を用いた中央集中型(メインフレーム)アーキテクチャであり、汎用コンピュータからコンソールや射撃指揮装置、およびリンク 11やリンク 14データリンクを介して艦隊内へ戦術データを伝送していた[1]。
SENIT 1
[編集]1967年7月に就役したシュフラン級駆逐艦「シュフラン」に初めて搭載された[1]。初期型はNTDSの派生型であり、ハードウェアやソフトウェアの多くがライセンス生産され、主として艦隊および自艦の防空に用いられた[1]。後に巡洋艦「コルベール」(1991年退役)にも近代化改修でレトロフィットされた[1]。
コンピュータはUNIVAC 1212(CP-642Bと同仕様; メモリ96キロワード、処理速度125 kops)を3基使用し(うち1基はバックアップ、残り2基はレーダーデータの受信と脅威評価・表示を分担)、表示部にはAN/UYA-4コンソール(Thomson-CSFがライセンス生産、30cm PPI単色画面、最大70トラック・96記号表示可能)が10基配置されていた[1]。
SENIT 2
[編集]SENIT 1の発展型であり、すべての初期型システムがこの仕様に改修された[1]。
当初はドイツ連邦海軍(当時の西ドイツ海軍)との共同開発による「欧州版NTDS」として期待されたが、ドイツ側は後に独自のSATIRシステム開発へと舵を切った[1]。空母仕様では9基のコンソールとV6 TER水平ディスプレイ、シュフラン級では10基、他の駆逐艦では5基のコンソールが配置され、128目標の同時追尾が可能であった[1][2]。
クレマンソー級航空母艦(1978年から1980年にかけて搭載、空母「フォッシュ」のシステムは退役したT-53型駆逐艦「タルテュ」から流用)、T-53型駆逐艦(1969年から1971年)、およびT-47駆逐艦防空改修型(1968年より)に搭載された[1][2]。
対潜機能の統合と国産化
[編集]フランス海軍は独自の路線へと進み、ハードウェアの国産化と独自の運用思想の反映が行われていった[1]。
SENIT 3
[編集]対潜戦(ASW)艦艇向けに特別に設計され、1973年3月に就役したC-65型駆逐艦「アコニト」(退役済み)や、トゥールヴィル級駆逐艦(C-67型)に搭載された[1][2]。
UNIVAC 1230コンピュータ2基(メモリ拡張型)とAN/UYA-4コンソール(アコニトは8基、トゥールヴィル級は10基とPLAD自動プロッティングテーブル)を使用し、文字情報を表示するための4基の小型テレビ画面が補助的に備えられていた[1][2]。本世代から対潜機能の戦闘システムへの完全な統合が達成され、128個の空中・海中目標情報を同時に保持可能となった[1][2]。
SENIT 4
[編集]1979年12月に就役したジョルジュ・レイグ級駆逐艦(F-70型)のネームシップに搭載された[1][2]。
本世代からフランス製のソフトウェア言語(Pascal派生のLTR 2)およびフランス製のハードウェア(CII社のIris 35 Mを堅牢化した16ビットのP2MSミニコンピュータ、メモリ256キロワード)が全面的に導入された[1][2]。表示部には新たにVizirサブシステム(16インチ単色画面コンソール7基、プレシラックE8000自動プロッティングテーブル2基)が使用され、120-130目標の同時管理能力を備えていた[1][2]。
連邦型システム
[編集]SENIT 6
[編集]進化の過程で中央集中型から連邦型(フェデレーテッド)アーキテクチャへと移行した世代であり、1988年7月に就役したカサール級駆逐艦(F 70AA型)向けに設計された[1][2]。
システムは、Mitra 125の派生型である32ビットミニコンピュータ「CIMSA Sintra 15 M/125X」(1 MIPS、メモリ64k-512キロワード)7基で構成され、これらは1MbpsのDIGIBUS(Bus Standard Marine、ダッソー・エレクトロニク社製)LANによって相互接続されていた[1][2]。7基のうち1基は予備機であり、残り6基はそれぞれ捜索、電子戦/リンク、対水上戦・個艦防御、表示、艦隊防空ミサイル・システムなどの個別機能を分担した[1][2]。後にリンク 16の処理を行うために8基目のコンピュータが追加されている[1][2]。また、トムソンCSF社とダッソー社が共同開発した、電子戦(ESM/ECM)の協調管理・最適化を行う埋め込みソフトウェアモジュール(単体ではEWC2ワークステーションとして市場展開)を標準で内蔵していた[1][2]。
表示部にはGVM多機能コンソール(11基の単座コンソールと、艦長・TAO用の1基の複座コンソール、文字表示用の19インチ画面)および2基のE8000プロッティングテーブルが使用され、同時に250〜400目標の戦術トラックを処理できた[1][2]。
SENIT 68
[編集]1996年より開始されたカサール級の改修計画において、リンク16をSENIT 6へ完全に統合するために開発された仕様である[2]。これは空母「シャルル・ド・ゴール」に搭載されるSENIT 8のリンク処理・広域防空モジュールを流用し、物理的なブリッジを介して既存のSENIT 6システムと結合することで、両者のトラックテーブルなどの一貫性をリアルタイムで維持した[2]。これに伴い、CICコンソールの一部がカラー画面と人間工学設計を取り入れた最新の「Constance」コンソールへと更新され、2003年までに近代化改修を完了した[2]。
コンパクト版システムの派生
[編集]- SENIT 5
- SENIT 5は、1976年に発表された中・小型艦艇(2,000-6,000トンクラス)向けの仕様であったが、フランス海軍向けとしては不調(計画中止)に終わった戦闘システムである[2]。この「SENIT 5」という名称は、トムソンCSF社が独自の資金(プライベート・ベンチャー)で開発した初代「TAVITAC」システムに対して、非公式あるいは半公式に割り当てられた呼称である[2][1]。この指定は、海軍プログラミングセンター(CPM)が同システムを評価した際、あるいは同センターがソフトウェアを準備した際に付与されたと信じられている[1]。なお、同社が海外の輸出市場向けに生産した「Vega III」システムは、実質的にこの計画中止となったSENIT 5の輸出バージョンに相当するものである[2]。
- SENIT 7
- フランス海軍がラファイエット級フリゲート向けに採用した戦術情報処理装置(STI / SACEIT)に対する半公式のシステム区分であり、その実体は民間基準のハードウェアを活用して構築されたTAVITAC 2000である[2][1]。
分散型オープンシステム
[編集]SENIT 8
[編集]SENIT 8は、フランス海軍の戦闘情報処理装置として初めてオープンアーキテクチャを採用した完全分散型のシステムであり、当初は原子力航空母艦(PAN)用の戦闘システム(SISC-PAN、またはSDC、SISCとも呼称)として1985年頃より開発が開始された[1]。1999年12月に就役した航空母艦「シャルル・ド・ゴール」に搭載されて実戦配備となった[2][1]。
システムは、50MHz駆動のヒューレット・パッカード(HP)社製32ビットPA-RISCプロセッサ(CSEEディフェンス社により堅牢化、米国のTAC-3相当品)8基を4つのキャビネットに分散配置し、これらをダッソー・エレクトロニク社のリアルタイム確定的ネットワークプロトコル「Recital」のデチューン版である「ED.103」デュアル冗長イーサネットLAN(通信速度10Mbps、最大長1.5km、最大100サブスクライバー対応)で結合している[2][1]。1つのキャビネットが指揮・統制機能を担い、残りの3つがそれぞれセンサー、兵器、およびデータリンク処理を分担する(各キャビネットには能力拡張用の3つ目のスロットスペースを確保)[1]。戦術アプリケーションのソフトウェアには約100万行のAda言語、コンソールのグラフィック処理には約40万行のC++言語が使用されており、リアルタイムオペレーティングシステム(POSIX規格、HP/RT)やグラフィックソフトウェア(X-Windows-CGI)を介して、特定のハードウェアに依存しない独立性が確保されている[2][1]。これにより、データ融合・相関処理後に最大1,000トラックを保持可能な戦術状況図表示能力(覆域:1,024×1,024海里)を誇り、ネットワーク障害時は瞬時に、コンピュータ故障時でも3秒未満で自動的に再構成を行う高い抗堪性を備える[2]。
オペレータ端末には、CSEEディフェンス社製の「Calisto」ワークステーション(AN/UYQ-70相当品)が24基(単画面の状況図表示用9基、残りは複座2画面型、ほかにSLAT魚雷防御システム用に25基目のスペースを確保)配置されている[2][1]。コンソール上では、赤外線捜索追尾システム(IRST、Vampir MB)の画像上にレーダー(DRBJ-11B 3次元レーダー等)の目標シンボルをオーバーレイ表示する自動データ融合機能が利用可能である[2][1]。本システムは、リンク11、リンク14、およびリンク16(将来的にリンク22も想定)のマルチリンク処理を完全に統制し、マトラ・キャップ・システムズ社製の非リアルタイム指揮支援システム「Aidcomer」(衛星通信やデータベース情報処理を担う)とも専用のイーサネットバスおよびインターフェースコンピュータを介して相互接続されている[2][1]。
輸出仕様
[編集]DCN(現ナバル・グループ)の輸出・商業部門であるDCNIは、SENIT 8のオープンアーキテクチャ技術やCalistoワークステーション、あるいは一般のCOTSハードウェアをベースとした、中小型艦艇向けの商業用派生シリーズを展開した[2][1]。これらは当初「SENIT 8-100/200/300/400」と呼ばれたが、後に「SENIT 8.01/02/03/04」へと改称された[1]。1998年初頭の時点で、UNIXオペレーティングシステム(Solaris)ベースのSunワークステーション、VME戦術コンピュータ、20インチ液晶画面、および2Gバイトのストレージを備えたCOTS仕様の開発が進められていた[1]。
- SENIT 8.01
- 沿岸哨戒艦(OPV)や大型補助艦艇向けの自衛対空・対水上戦(AAW/ASuW)システムであり、フランス海軍のフリゲート「ジェルミナル」で洋上試験が行われたほか、ブラジル海軍の戦術情報処理装置「Siconta II」の基盤技術となった[1]。
- SENIT 8.02 / 8.03
- 主にコルベットやフリゲート向けであり、8.02は対水上・対空あるいは対潜(ASW)任務の選択的処理、8.03はこれら3つの立体的な作戦を同時に並行処理する能力を持つ(ワークステーション数は6-13基)[2][1]。
- SENIT 8.04
- 主要水上戦闘艦や航空母艦、あるいは任務部隊の旗艦指揮統制向けであり、最大25基のワークステーションをサポートする仕様である[2][1]。なお、新型のミストラル級強襲揚陸艦には、本系列の技術を踏まえたSENIT 9が搭載された[2]。
- Minetac
- SENIT 8.01をベースに開発された、対機雷戦(MCM)艦艇専用の統合戦術情報処理システムであり、1997年10月にトルコ海軍の元フランス製シルセ級機雷掃討艇の近代化・装備用として5セットが購入された[2][1]。本システムはCOTSコンピュータを用いて単一のコンソールに集約され、既存のプロッティングテーブルに代わって航海システムやDUBM-20Bソナー、その他のデータ収集装置・記録装置とインターフェース結合されている[2]。
SENIT 2000
[編集]ノルウェー海軍の高速戦闘艇近代化・建造プログラム向けとしてDCNI社がアレニア社を破って受注を獲得した、SENIT 8の派生型戦闘管理システムである[2][1]。1997年6月26日に計14システム分として約1億1,700万ドルの基本契約(ハウク級近代化用)および新型のシェル級向けへの1億2,400万ドルのオプション契約が締結された[1]。
ハウク級には4基(戦術オフィサー、情景合成、センサー/兵器オペレータ2基)、シェル級には6基(艦長、TAO、OTC、情景合成、センサーオペレータ、兵器オペレータ)の「KD2000」デュアル・フラットスクリーン・ワークステーション(HP PA-RISC技術ベース、10MbpsのイーサネットLANで連接)が配置され、MMIにはタッチパネル2基、QWERTYキーボード、ジョイスティック、およびトラックボールが採用された[1]。シェル級仕様ではPowerPCプロセッサとLinuxオペレーティングシステムを用いた完全なオープンアーキテクチャへと刷新され、MRR-3Dレーダー、EDO CS-3701 ESM、CEROS 200レーダー方位盤、およびVIGY 20電子光学方位盤のインターフェースモジュールが統合されて、2004年に予備設計、2005年4月に詳細設計レビューを通過した[2]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]参考文献
[編集]- Friedman, Norman (2006), Naval Institute Guide to World Naval Weapon System (5th ed.), Naval Institute Press, ISBN 978-1557502629
- Hooton, E.R., ed. (2001), Jane's Naval Weapon Systems (34th ed.), Jane's Information Group, ISBN 978-0710608932