少女漫画雑誌『なかよし』にて、2002年9月号から2005年4月号まで連載された『ぴちぴちピッチ』(漫画/花森ぴんく、シナリオ/横手美智子)。人魚姫伝説をモチーフに主人公・七海るちあと堂本海斗の恋愛を描きながらも、歌を武器に敵と戦うマーメイドたちが大活躍する“美少女戦隊”要素も含んだ同作に夢中になった人も多いだろう。
そんな『ぴちぴちピッチ』が、2021年8月より再び『なかよし』で連載を開始した。新章となる『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ aqua』で描かれるのは、るちあと海斗との娘・七海るきあの物語。
前作のファンだけでなく、現代の子どもたちにも「可愛い!」と大人気の『ぴちぴちピッチ』シリーズについて、作者の花森ぴんくさんとTVアニメ版でるちあを演じた声優・中田あすみさんが魅力を語り尽くす。
連載スタートから20年を経て
──2002年から2005年にかけて連載されていた『ぴちぴちピッチ』ですが、このたび16年ぶりの新章『ぴちぴちピッチaqua』がスタートしました。きっかけは何だったのでしょうか?
花森:『なかよし』編集部からお話をいただいたので、きっかけについての説明は担当編集さんのほうが上手かもしれません(笑)。
担当編集:この数年で“『ぴっち』熱”が再燃している感じが、編集部にも伝わってきていました。2019年に中田さんをはじめ、アニメ『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ』のメンバーが集まって非公式で行った15周年ライブ(非営利のチャリティーイベント)も盛況だったとのことで。
中田:そうなんです。『ぴちぴちピッチ』の名前を出さずにやらせていただきましたが、それでもチケットが完売するという現象が起きたので、改めて「『ぴっち』ってすごいな」と思いました。
担当編集:『ぴっち』関連のグッズの販売状況もすごく良かったので、「大人になった『ぴっち』ファンの方たちが求めているものがあるんじゃないか」と思い、花森先生に「新章をやりませんか?」と提案したんです。
花森:新章の内容については、いくつかの案がありました。るちあと海斗の子どもを主人公にするパターンか、あるいは、るちあのその後を描いたものにするか。それとも全然違う世界線の『ぴっち』を描くか……いろいろと案を出して考えた結果、るちあと海斗の子ども・るきあの物語になりました。
“母娘が一緒に戦う姿”への憧れ
──るちあと海斗の子どもを描いたパターンになった決め手は何でしたか?
花森:頭で考えてもイメージが浮かばなくて、そういうときは絵を描いてみるんです。それで、母と娘のマーメイドの絵を描いてみたらすごく可愛くて……母娘という構図もすごく良かったんです。
「母娘で戦う姿が見たい」というのもありました。少年漫画では父と息子が一緒に戦うような描写も多いですよね。それがちょっと羨ましくて、「少女漫画にもそういうのがあったらいいな。母と娘が一緒になって戦うのって憧れるな」と思ったのもあります。
──主人公のるきあを、どんな女の子にしようと思いましたか?
花森:るちあはキャピキャピした元気な女の子でしたが、娘のるきあはもう少しクールな、いまどきの女の子がいいのかなと思いました。運命を信じたいけれど、「本当に運命なんてあるの?」と、ちょっと冷静なところもある。現代の女の子に近いイメージですね。
──その一方で、『ぴちぴちピッチaqua』の冒頭からるちあと海斗はイチャイチャしていましたね(笑)。
花森:『ぴちぴちピッチ』のときは戦いのなかで恋愛がうまくいかなかったり、イチャイチャできないこともあったので、『aqua』では仲良くしていてほしいなと思っています(笑)。
──中田さんは新章スタートと聞いて、どのように感じましたか?
中田:「これって夢かな?」と思うぐらいビックリしました。「まさか、『ぴっち』がまた『なかよし』で見られるなんて!」とワクワクしましたし……私も子どもを出産したタイミングだったので、「るちあにも子どもがいたなんて!」とダブルで驚きました。すごく嬉しかったですね。るちあに子育てのノウハウを聞きたいです。それにしても、あの海斗がパパだなんて……衝撃ですが(笑)、「ふたりがくっついて、本当によかった~!」と思いました。
るちあの第一声に込められた思い
──2003年から2004年にかけて放送されたアニメ『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ』、『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ ピュア』について振り返っていきたいのですが、花森先生はアニメ化が決まった際にどのように思いましたか?
花森:嬉しいという気持ちしかなかったですね。当時はまだ、右も左もわからない状態だったので……デビューできたことも、『なかよし』に掲載されることも、アニメ化されることも、全部「嬉しい」しかなかったです。自分のキャパ以上にお仕事をたくさんいただいていたので、追いつくのに一生懸命だったというのもあります。
──コミックスにある先生の振り返りメモからも、大変そうな現場の様子が伝わってきました。
花森:いま見ると「そこまで書かなくても」っていうぐらい書いているので(笑)、ちょっと恥ずかしいんですけど……当時は若さの力で突っ走っていました。
──中田さんは『ぴちぴちピッチ』が声優としてのデビュー作でしたが、るちあ役に決まったときはどのように感じましたか?
中田:小学生の頃に『なかよし』をずっと読んでいたので、「なかよしで連載されている漫画のアニメの主役をやれる! 何それー!」って、夢のように思って本当に嬉しかったです。
──プレッシャーは?
中田:当時の私は中学生だったので、あまり感じていなかったと思います。それよりも「ワクワクする、楽しそう、嬉しい!」というポジティブな気持ちのほうが大きかった印象です。オーディションのこともよく覚えているんですが、歌を歌ったり、セリフを読んだりと……初めての経験ばかりでしたが、とても楽しかったですね。
──るちあ役に決まり、アフレコが始まってからはいかがでしたか。
中田:自分がやっていることが正解かどうかもわからなかったので、不安はありましたが……第1話の一番最初のセリフが「それじゃあ行ってきま~す!」だったんです。その第一声が、私自身の「ここからアニメのお仕事を頑張ってやっていこう!」という気持ちも込めたセリフになったような気がします。「不安もあるけれど、とにかく思いっきりやろう!」と思いました。
──花森先生は、声が吹き込まれたるちあを見てどう感じたのでしょう。
花森:「動いてる! 喋ってる!」って、本当に感動しました。最近またアニメを見返しているんですが、いまのあすみちゃんのお話を聞いて、もう一度あの「行ってきま~す!」のところを見たくなりました。
中田:え~、恥ずかしいです(笑)。
──先生はアニメ化される前から「このキャラクターはこういう声かな?」とイメージされていたのでしょうか。
花森:海斗だけは「こういう声をイメージしています」と、当時の担当さんに伝えていました。そこだけはなぜか、すごくこだわりがあったみたいで。
──ほかのキャラクターについては、「これ」というのは特になかった?
花森:そうですね。最初から「原作とアニメは別もの」と思っているところがあったので、「アニメーションと声優さんが作りだすキャラクターってどんなだろう? どういう子ができあがるんだろう?」と楽しみにしていて。
当時の担当さんも「こうしてほしいとかってある?」と聞いてくださいましたが、「現場の方たちに自由に動いていただいて、それをいち視聴者として楽しませていただきたい」とお伝えしていました。だから、アニメでキャラクターたちが動いて喋っているのを見たときは、すごく嬉しかったですね。
「人を好きになる感覚って?」中学生が演じたからこその悩み
──中田さんは当時、るちあを演じる際にどんなことを意識していたのでしょう。
中田:るちあはすごく素直な女の子だと思っていたので、あんまり「こう演じよう」とは考えず、アフレコの現場で相手の方から出てくるセリフを受けて、どう自分は返したいか。そのときに湧き上がる気持ちを大事にしていたと思います。
──特に難しかった表現などはありましたか?
中田:アニメ第2期の『ピュア』では海斗が記憶を無くしてしまって、ずっと辛い時期が続いたので、その辛さを演じるのが大変でした。最終回ではそれらの思いが全部報われて、るちあが「海斗、大好きだよ」と言うんですが、その「大好きだよ」というセリフをどんなふうに言ったらいいのか……迷いがすごくあって、家で悩んだ覚えがあります。
──どう迷っていたのでしょう…。
中田:当時は中学生だったので、人を好きになる感覚がまだよくわかっていなくて。「るちあが海斗を好きな気持ちって、どんな感じだろう?」と想像するしかなかったんです。海斗役の岸尾だいすけさんはすごく優しい方で、「こうしたらいいんじゃない?」と現場で教えていただいたこともありましたが……中学生とどう接したらいいのかわからない感じが若干あったんでしょうね(笑)、すごく気を使っていただいた覚えがあります。
花森:いまの話で思い出しましたが、イベントのときだったかな? 「恋人役をやってるうちに、本当に好きになっちゃったりする人がいるけど、あすみちゃんはどうなの?」って舞台裏で聞いたんですよね(笑)。いま思うと、何を聞いてるんだって感じなんですけど……。
中田:ははは!
花森:そしたらあすみちゃん、すっごい真剣に「私は演じるのに一生懸命で、ほかのことを考えられないです」って。
中田:真面目~!
花森:すごく正論をおっしゃっていて。「あ、そうだよね」と思った記憶があります(笑)。
るちあからたくさんのことを勉強させてもらった
──花森先生は、アニメからご自身の創作にインスパイアされたことなどはありましたか?
花森:端々にあるとは思いますが、特に歌についてはありますね。アニメのなかで歌われる曲がすごく良くて。メロディーもですが、とにかく歌詞がいいなと思ったので、ぜひ漫画にも取り入れさせていただきたいとお願いして、最終回のところなどに入れています。
──原作ファンの方たちは特に「アニメで歌のシーンがどんなふうになるんだろう?」と気になっていたと思いますが、中田さんは歌のシーンをどんな気持ちで臨んでいましたか?
中田:曲数がかなりあったので、頻繁にレコーディングをしていたんです。新しい曲がくるたびに「わ、やった! 新しい曲だ!」と、いち視聴者のように楽しみにしていました。「今度はテンポの激しい曲なんだ」とか「今度は可愛らしい曲調なんだ」とかって、一番最初に知ることができるファンだったかもしれません。
──るちあとして歌わないといけないので、最初は難しかったと思いますが。
中田:最初は本当に申し訳ないくらい、自分のことでいっぱいいっぱいだったので……るちあというよりは、中田あすみが歌っている感じでした。そこから徐々に「これはキャラソンなんだ」という意識が芽生えてきて、声の出し方や歌い方を気にするようになっていったと思います。
地声はそんなに高くないんですが、るちあとして歌うときはちょっと可愛らしく、声を高くしてみたり。特に後半は、そういった小さな工夫を自分なりにやっていたので……当時は自分でもそんなに気づかなかったけれど、いま客観的に聞いてみると「あ、やっぱり歌い方が変わってるな。るちあに勉強させてもらったな」とすごく思います。
キャラクターたちがみんなに愛されたから、いまがある
──改めて『ぴちぴちピッチ』を通して得たものとは何だったと思いますか?
花森:アニメでキャラクターに命を吹き込んでいただいて、曲も作っていただいて……たくさんありすぎますね。自分が絵を描いているものが、もはや自分の手から離れて、どんどん大きくなっていった感じです。
担当編集:いまもこうしてファンの方たちに支えていただいているというのも、すごい財産ですよね。ファンの方たちやアニメのおかげで、また新章を出すことができたので。
花森:キャラクターが愛されたから、いまがあるんだなと思います。そんなに長い間『ぴっち』のことを思ってくださるファンの方がいるというのは、本当にすごいことだと思います。
中田:私も『ぴっち』から得たものが多すぎて、挙げるときりがないんですが……幼い頃の私は美少女戦士になりたかったので、夢を叶えていただいた感じがします。『ぴっち』のイベントには「『ぴちぴちピッチ』が大好き!」という、幼い頃の私みたいな女の子たちがたくさん来てくれたので……私も『ぴっち』に夢を叶えてもらったし、女の子たちにも夢を与えることができたんだなって。そういう存在になれたのかなと思うと感慨深いし、嬉しいです。
たくさんのファンの方が応援してくださって、私も『ぴっち』の作品に関われたことが本当に嬉しくて……先生のおかげですよね。ありがとうございます!
花森:ありがとうございます。なんかもう……ちょっと泣きそうです。
──海外でも『ぴちぴちピッチ』の人気は根強いですよね。
担当編集:女の子にとって、人魚って普遍性がありますよね。悲恋がベースにあるからキュンとしちゃうし、切なく思えるんでしょうね。かつ、肌色が多くて大人っぽい感じがある人魚って、モチーフとしてすごく強いのかもしれません。
中田:たしかに、いち読者として読んでいるときは、ちょっと大人な雰囲気にドキッとして、女子心をくすぐられました(笑)。
──ドキドキするシーンも結構ありますもんね。
花森:私のなかでは、そういうシーンはロマンチックなイメージなんですけど、担当さんからは「刺激的だね」と言われていました(笑)。
中田:『ぴっち』の魅力はほかにもたくさんあると思うんですが、アニメに関して言うと……演者もスタッフもみなさん『ぴっち』が大好きだったんですよね。それでみんなが仲良くなって、その和気あいあいとした雰囲気が作品にも表れていたと思うんです。そういったものがファンの方にも伝わったんじゃないかなと思います。
花森:いまでもファンの方から「るちあと海斗が見たい」とか「それぞれのマーメイドのその後の恋愛はどうなりましたか?」といった声をいただくことがありますから。
──いずれはそういったものも描きたいという思いはありますか?
花森:ありますね。いま出ているキャラクターのなかにも、「じつはこうです」という設定を結構作ってあって。「この設定がここに繋がるんだよ」みたいな、ちょっとした引っかかりを考えたりもしているので、「おお!」と思っていただけるようには作りたいと思います。
るちあ、波音、リナの気になるその後は?
──1月13日より、『ぴちぴちピッチ 新装版』の1、2巻が発売されます。「描き下ろしの表紙が可愛い」と発売前から話題でしたね。
花森:ありがとうございます。新装版では表紙を描き下ろして、各巻(3巻は2月10日発売)にるちあ、波音、リナの最終回後の恋愛についてのショート漫画を入れています。
──そして同じく1月13日に『ぴちぴちピッチ aqua』の1巻も発売されます。ファンには嬉しい『ぴっち』ラッシュですね。反響は届いていますか?
花森:「るちあと同じように年月を重ねられた」と喜んでくださる方が多かったので、とてもありがたいです。あとは……面白かったのが「当時は少女でしたが、いまは大人なので経済的に協力します」と書いてくださる方がいて…。「ありがとうございます!」と思いました。みなさんがそれぞれ生活されているなかでコミックスを買ってくださっていると思うと、私も頑張らないといけないと改めて感じました。
担当編集:『ぴちぴちピッチ aqua』について、「マーメイドが可愛い」といまの小学生たちも言ってくれるのが編集部としてもすごく嬉しいです。やっぱり人魚は普遍だなと思います。
──今日はみなさん、楽しいお話をありがとうございました!
中田:こうやって先生のお顔を見ながらお話しするのは久しぶりだったので、すごく嬉しかったです!
花森:私も嬉しかったです! テレビで見かけるたびに「あ、あすみちゃんだ!」と思って見ているので、一方的に会っている感覚にはなっていましたが(笑)、こうして久しぶりにきちんと会話ができたのは本当に嬉しいですね。
中田:いまはなかなか会えませんが、コロナ前は『ぴっち』の声優さんたちで定期的に集まったりもしていて。そのたびに「先生にも会いたいね」と話していたので、今度は先生にも参加していただきたいです!
(取材・文:とみたまい)